皆様、こんにちは。訪問看護支援協会の広報部長の坪田康佑です。
4月15日、2025年1月1日に公益社団法人日本看護協会（以下、日看協）が東京大学に開設した社会連携講座「ナーシングデータサイエンス講座」の開設記念シンポジウムに参加してまいりました。
会場に到着してまず驚いたのは、その熱気でした。事前申し込みは早々に満席となり、当日も開始時刻の15時を過ぎてもなお、会場である東京大学本郷キャンパス14階へと向かうエレベーターを待つ人々の列が建物の外まで伸びていたのです。この光景は、看護界におけるデータサイエンスへの関心の高さを物語っていると感じました。
シンポジウムを通じて強く印象に残ったのは、職能団体である日看協の強い意志です。看護師一人ひとりの力ではなかなか変えることのできない課題に対し、大学という知の府と連携し、科学的なエビデンスを構築することで解決を目指す。その戦略的な視点に、改めて敬意を覚えました。
特に、特任教授である林田賢史氏の開設にあたっての言葉は、深く心に響きました。サービス利用者の変化、サービス提供者の変化、そして逼迫する財政状況といった、現代社会が抱える複合的な問題に対し、看護の適正化を図る上で、これまで圧倒的に不足していた量的データを用いた研究の重要性を強調されました。
「看護師の貢献度や困っていることに関して定量的に示すことができていない」。この言葉は、私たち訪問看護の現場で働く人間にとっても、非常に重いものでした。日々の業務の中で、私たちは多くの経験や知見を積み重ねていますが、それを客観的なデータとして示すことが難しい現状があります。
林田特任教授は、この講座の役割を「看護を可視化し、エビデンスを構築する」ことだと明確に示されました。分析に使えるデータベースの構築、科学的根拠に基づく政策形成（EBPM）の視点をもって臨床に還元できるエビデンスを構築できる人材の育成。そして、すでにあるデータを活用し、複数のデータベースを結合し、不足しているデータは新たに作り出す。そのためには、定義の統一、標準化、記録といった基礎的な取り組みも不可欠であると述べられました。
さらに、「研究者だけではなく、臨床、政策・行政など多様な人材を育てていきたい」「ナーシングデータサイエンスでウェルビーイングを支えていきたい」「臨床、政策・行政、学術の連携で看護の可視化を加速する」という言葉からは、この講座が単なる研究者の育成に留まらず、看護界全体を変革していくという強い意志が感じられました。「講座だけでは限界があるので、共に変えていきたい」という呼びかけは、私たち訪問看護に関わる全ての人間にとっても、他人事ではありません。
訪問看護の現場は、まさに多様なデータが眠る宝庫です。ご利用者様のバイタルデータ、ケアの内容、訪問時間、そして何よりも、そこで交わされる言葉や表情といった質的な情報。これらのデータを科学的に分析し、活用することで、より質の高い、そしてより効率的な訪問看護の提供に繋がる可能性を秘めているはずです。
今回のシンポジウムに参加し、ナーシングデータサイエンスという新たな潮流が、訪問看護の未来に大きな希望をもたらしてくれると確信しました。私たち訪問看護支援協会も、この動きを注視し、積極的に連携していくことで、データに基づいたより良い訪問看護の実現に貢献していきたいと考えています。